銀の風

序章・大山脈を越えて
―5話・磁力の洞窟大異変―


一行は再びチョコボの背に乗って、今度は慌しく町を飛び出していた。

“磁力の洞窟に、バロンの飛空艇がとんでいったんだよ。”

その言葉を聞いたため、一行は深く考える前に行動に移した。
これを逃せば、次にすぐ会える保証はない。
御託を並べてああだこうだといっている暇は、全く無いのだ。
「ねぇ、もっと早くいけないの〜?!」
一番そわそわしている依頼主は、無茶を平気で口に出す。
チョコボはもう、かなりの速度で走っているのにだ。
「無茶言うな!幻獣のチョコボだって、これ以上はスピードだせねぇよ!」
リトラが呼び出した幻獣のチョコボは、普通のチョコボよりもいくぶん速かった。
とはいえ、フィアスの望む速さが出せるわけがない。
「だ〜〜、ケーツハリー呼んでいいか?!」
疲れで落ちてきたチョコボのスピードにたまりかね、
りトラがかんしゃくを起こしてわめき散らす。
後ろから聞こえるフィアスの声も気が短くなる要因だが、
それ以上に依頼を早く片付けたいがために気がせいているらしい。
彼はただでさえ短気なのに、これ以上短気になってはリュフタがたまらない。
精神的な面でだが。
「リトラはん、それはもう少し待つんや〜。
ケーツハリーはんは常駐MPが10やで〜〜!」
常駐MPとは彼らが勝手につけた通称で、本名は違う。
具体的に言うと、これは一時的に幻獣を地界に留めておくためのMPだ。
一定時間ごとに消費され、強い幻獣ほど消費量は多い。
勿論、術者のMPが切れれば帰ってしまう。永遠にとどめて置けるわけではない。
分かりやすく言えば、給料みたいなものだろう。
「ちょっと、前みなよ!魔物が居る!!」
後ろから追いかけるアルテマが、大声を張り上げて危険を知らせた。
前には、手ごわい魔物が何体も居る。
「何でこんなときにきやがるんだよ〜!チョコボ、強行突破だ!!」
ちっとリトラが舌打ちし、チョコボの手綱を強く引く。
「クエェェ!!」
勇ましい声を上げ、チョコボは雷精とクアールのグループの間をすばやく駆け抜ける。
だが、獲物を逃がすまいとする魔物達のしつこさは、
うんざりするほど長く続いた。
「ち……しゃあねえ、ここでケーツハリーを呼ぶ!!」
疲れた体に鞭打ったがために、
あっという間にチョコボたちのスピードは落ちた。
一方、魔物達の方のスタミナはまだ尽きる気配がない。
みるみる距離が縮まっていく。
「敵はうちらに任せとき!
―優しき水の精霊よ、われらを邪悪な者たちの魔法から護りたまえ。シェル!!」
早口でまくし立てるような詠唱の後、
薄い緑の膜のような結界が一行を包み込んだ。
雷精が放つ魔法をこれで和らげるのだ。
「でぇい!!」
一方後ろでは、クアールが繰り出す爪の一撃をアルテマの剣が阻む。
爪と金属がぶつかって嫌な音を立てた。
「えーい!」
フィアスも負けじと攻撃アイテムで応戦する。
ボムの欠片を投げつけ、多少ではあるが敵をひるませた。
「大空を滑るように飛ぶ、鳥達の長よ。
汝が愛する空に、今一度我らを導き悪を討て。
出でよ召喚獣、ケーツハリー!!」
突如、一行の周りに突風が吹きつけた。
突風がチョコボの背から一行の体をケーツハリーの背に運ぶ。
風を操り一行をその背に乗せたケーツハリーは、天高く舞い上がる。
「今までよくやった。戻れ、チョコボ!!」
ケーツハリーの背から、リトラは地上に残されたチョコボたちに呼びかけた。
役目が済んだ以上、彼らを留めておく理由は無い。
「クエェ!」
役目を終えたチョコボは、空間に裂け目を通って幻界に帰っていった。
地上からこちらを恨めしそうに見上げる魔物を見て、リトラは会心の笑みを漏らす。
「リトラはん、お見事!」
どこからか取り出した扇子をぱっと開いて、リュフタがほめた。
ちなみにこの扇子はエブラーナの名産品だ。
「たすかった〜……。」
「ね、こいつ早いの?」
剣を収め、アルテマが問う。
「速いに決まってるだろ。磁力の洞窟はすぐだよな、ケリー!」
「へへ、もっちろん!ご主人、今日は最大かい?」
リトラは当然という顔でうなづく。
それを見た彼は、かなり機嫌良さそうに目を細めた。
「ちっちゃい子もおるんや、無茶はあかんからな!」
「へいへい。リュフタはきついね〜。そんなんだから男が寄りつ……。」
「余計なことはええ(怒)」
明らかに怒気をはらんだ声ですごむ。
ケーツハリーは、やれやれといわんげに首を振った。
「ねー……ぼく落ちないよね?怖いなぁ……」
「だいじょぶだと思うけど?男ならそれぐらい我慢しなよ。
ほんとに落ちそうだったら、ちゃんとつかんであげるからさ。」
ちょっとぶっきらぼうな気もする物言いだが、
フィアスは安心して息をついた。
「さて、頼んだぜ、ケーツハリー!」
「了解!任しとけ!!」
ケーツハリーは、風のように空を滑っていった。


―磁力の洞窟・上空―
黒い雲が上空に分厚く渦巻いている。
ただならぬ雰囲気が、その場に満ちていた。
「何や……この空気は?!」
「ぼくのかみの毛が、まっ黒だよぉ」
カーシーやその近縁・パサラの体毛は、周辺の属性によって体毛の色が変化する。
黒の場合、暗黒の力が満ちている証拠だ。
ちなみに属性的には似ているが、闇の場合は紫である。
このために連れ歩けるほど扱いは楽でないが、
うまく使えば便利かもしれない能力だ。
「おいおい主人、やばげじゃねぇか?」
暗黒の力の怖さは、ケーツハリーも知っている。
長時間、暗黒の力の耐性を持たないものが留まれば、
気が触れたり衰弱してしまうといわれる。後者の症状の原因は別のものだが。
「まーな・・って、下に誰か居る!おいケリー、降りてくれ!!」
遥か下に、数人の人影が見える。
「了解!」
ケーツハリーは、素早く洞窟の前に着地する。
すろと、そこにはセシル・ローザ・カインの姿があった。
「セシルおにーちゃん!」
「ふぃ、フィアス!?」
セシルが驚いて振り返った。
「うわ〜ん、何でだまって出ていったの〜〜〜!!!
ぼく、とってもとってもしんぱいだったんだよ〜!!!!!」
泣きながらセシルにすがりつく。
「ごめん。ああ、ほらそんなに泣かなくてもいいよ……。」
無事に会わすことが出来たので、一応依頼自体は完了だ。
何で黙って出て行ったのかいまいち分からないが、
多分急に決めた事だったのだろう。
「は〜……おい、ところで何でここに五英雄が3/5も居るんだよ?」
五英雄とは、ゼロムスを倒した後につけられたセシル達5人の呼び名だ。
世界を救った彼らを、人々は尊敬の念をこめてそう呼んでいる。
確かに、強大な悪を倒した彼らには英雄の呼び名が相応しい。
「それは……。」
カインが言いかけた瞬間、磁力の洞窟にすさまじい轟音が響く。
轟音と共に突き上げるような激しい揺れが全員を襲い、一気に体勢が崩れた。
上下に文字通りシェイクされ、足がまるで言う事を聞かない。
「な……、きゃあああ!!」
ローザが絹を引き裂くような悲鳴を上げた。
「うひゃあ、な、何何何?!!」
「あれは一体……!?」
慌てて洞窟の方を見やると、そこには禍々しい巨大な塔がそびえていた。
全てを見下すかのような、鈍い光沢を持つ黒き塔が。

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予告どおり、大変なことになっています。なんだかセシル達、ちょっとしか出てないですけど(汗
次回が、序章の締めにあたります。
なので、ここからが本格的な冒険ということですね。
……6の幻獣が登場しているのは見逃してください。
幻獣界には色々いるんですよ……。(←無理やりすぎ